気が付けば発達障害43年目のベテランでした 2 例えば歌を歌う時

小説

例えば歌を歌う時

ハルミはいつも困っていた
五線譜に書かれた音符から音が想像できないからだ

音楽の時間、周りが音符を見て、その音を口から出せる事が不思議でならなかった

(どうやってみんなはこの音の位置がわかっているのかな)

音の位置

例えば五線譜に「ソ」の音が書いてるとする
ハルミは「ソ」の音が喉のどの位置にあるのかを考えて音を出そうとしているのだ

喉を五等分する、そこにソを置く
グッと舌を下げて、そのソの位置に届くイメージを作る
口からソと思う音を出してみる

まとめるとこんな感じだ

だから歌を歌うとなると忙しい
ひとつずつ想像していてはとても間に合わないのだ
だからうまく歌えなくて途中から置いてけぼりになってしまう

カラオケはもっと大変
文字しか表示されないから想像でその文字が喉のどこの位置にあるかを決めて歌うのだ
だけど追いつかないから、その文字に頭の中で色をつけて、
この色はこの位置と決めて想像して音を出す

だから早いテンポの歌がとっても苦手だった

(みんなはどうやって歌を歌っているのかな・・・)

カラオケを楽しみたいけど周りについていけなくてカラオケは苦手だった

そうそう、五線譜に収まる音符ならまだいいのだが、
五線譜からはみ出た音になると大変
想像しにくいからだ
だからよく楽譜の音符に色鉛筆はマーカーーで色をつけていた
イメージするために
五線譜からはみ出た青い音符は喉のこの位置
赤い音符はここ、緑は・・・
ひとつひとつ色を塗って自分の喉の位置を決めて歌う
それでも違う音を出してしまうから、
学校で行われる合唱コンクールでは友達に迷惑をかけないように、
小さな声で音を出した

本当は大きな声で楽しく歌いたいのに

ハルミはみんながどうやって喉の位置を決めて正確に音を出しているかいつか聞いてみたかったけど、
何となくこれは恥ずかしいことのようで聞けなかった

 

43歳のハルミは病院でこの話を半ば興奮気味に医者に話した

もしかしたらこれも発達障害の症状だったのかもしれない!
それなら私は合唱コンクールで上手に歌えなかったことも、
カラオケが苦手で途中で抜け出したことも(それは歌が苦手意外にその空間が苦手だったという理由もあるのだが)、
自分を責めなくてよかったことなのかもしれない!

確信を得たくてすがるように医者に話を聞いてもらった

しかし期待をこえる言葉が返ってきて思わずハルミはあっけにとられた

「誰にも相談せず、助けを求めず、ひとりでよくそこまでの方法を考えて実践してこられましたね。こんな方は珍しいです。一生懸命、自分を理解してこられたのですね。」

この言葉にハルミは喉の奥がツンとして思わず目をふせた

みんなはこんな風に音を考えていなかったんだ!
そして私は何もないところから自分で解決しようと頑張ってこれたんだ!

小さなころの自分、学生時代の自分、社会人になった時の自分

歌わなければいけない瞬間は容赦なくハルミに訪れた
だけどその度に「歌い方が分からなくて困っている」と言えば周りに迷惑になるからと、
ひとり頭の中で音の位置を考えて乗り越えてきた(やり過ごしてきた)

ようやくハルミはそんな自分を優しく見つめて許すことができたのである

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